「年金支給開始、70歳超も可能に」という報道
2017/10/12
「高齢社会対策大綱」という高齢社会に対する政府の方針を示すため前回は、「高齢社会対策の基本的在り方等に関する検討会」(以下「高齢社会対策検討会」)(2011年10月〜2012年3月開催)で検討され、高齢社会対策検討会「報告書」(2012年3月版)が作成されました。それを参考に「高齢社会対策大綱」(2012年9月7日版)が閣議決定されました。
その「高齢社会対策大綱」の見直しが今年6月内閣府担当大臣より示され、前段として「高齢社会対策の基本的在り方等に関する検討会」の6回の議論の中で、高齢社会対策検討会「報告書」(2017年9月版)が出来たものです。
2017年9月版の高齢社会対策検討会「報告書」(http://www8.cao.go.jp/kourei/kihon-kentoukai/h29/k_6/pdf/s1.pdf)は、人口減少、高齢社会に伴う社会的な課題や対策を有識者が政府に助言をするというものです。基本的には安倍内閣の方針の中で内閣府事務局が資料を提供しつつ論点をまとめながら進められているようです。
今回、10/2付時事通信の記事では、『年金支給開始、70歳超も可能に=高齢社会対策で提言-内閣府検討会』との見出しの中で、社会保障制度の部分、特に年金制度の部分のみを説明して、「高齢社会に対応した社会保障制度の在り方に関する報告書をまとめた。」と述べ、「高齢者の就業意欲を高めるため、公的年金の支給開始年齢を70歳より後にできる制度を取り入れるよう提言した。」として「現行制度では、公的年金の支給は原則65歳からだが、60~70歳の範囲で選択することが可能。支給を早めると受取額が減る一方、70歳まで遅らせた場合は、最大で4割ほど増えるメリットがある。」と老齢年金(基礎・厚生老齢年金)の繰り下げ受給について記事の中では述べています。
しかし、「公的年金の支給開始年齢を70歳より後にできる制度を取り入れるよう提言」を、老齢年金の受給が原則65歳から原則70歳以上となるように政府に提言したと思った方も多かったでしょう。年金の原則的な支給年齢を繰り下げることは、昨今言われていますがこの報告書においては、原則は65歳のままなのですが70歳を超えても繰り下げが可能となる制度検討をするよう提言しています。しかし、現行制度であっても、70歳を超えての繰り下げ受給は可能なのです。
現行制度では、70歳まで繰り下げた場合に増額率42%(65歳時点での1.42倍)となるのですが、70歳を超えて繰り下げ受給が可能ではあるのですが(例えば75歳や80歳までも繰り下げも可能)、増額率が70歳の0.42(1.42倍)を超えてアップはしないのです。ですから就労の意欲ある高齢者が70歳で仕事をしなくなるということを意味しているのではないかと思われます。
報告書の「繰り下げを70歳以降も可能」という表現を、「70歳を超えて年齢に応じて年金が増額となる」といえばわかりやすく、また理解できるのですが。
現行制度では、75歳から繰り下げ受給を申請しても(あまりないと思いますが)は、70歳の時点で繰り下げ受給を申請したものとしてみなされ、遡及して過去5年分の年金が一括支払われることになっています。(下記「●老齢年金の受給を繰り下げる場合」の表を参照して下さい。)
このみなしがなされるという現行制度との兼ね合いはどうなるのかも気になるところです。
どちらにせよ、原則的な年金支給が70歳超ではなく、65歳のままで繰り下げを70歳を超えても増減額が年齢に応じてアップすることを意味する提言ではないかと思われます。
●増額率は、「繰下げ月数×0.7%(0.007)」、最大「42%(0.42)」です。
●繰下げ請求と増額率
請求時の年齢 | 増額率 |
66歳0ヵ月~66歳11ヵ月 | 8.4%~16.1% |
67歳0ヵ月~67歳11ヵ月 | 16.8%~24.5% |
68歳0ヵ月~68歳11ヵ月 | 25.2%~32.9% |
69歳0ヵ月~69歳11ヵ月 | 33.6%~41.3% |
70歳0ヵ月~ | 42.0% |
●老齢年金の受給を繰り下げる場合 現行制度でも年金の繰り下げ受給可能です。
1+増減率/100 を◯倍として表現 75歳や80歳でもらっても、1.42倍
60歳 65歳 70歳 73歳 75歳 78歳 | ||||||
65歳申請 | 原則 | ← 1.0 2ヶ月毎 | ||||
70歳申請 | ←1.42倍 2ヶ月毎 | |||||
75歳申請 | ←1.42倍 一括5年分 | ←1.42倍 2ヶ月毎 | ||||
78歳申請 | 時効 | ←1.42倍 一括5年分 | ←1.42倍 2ヶ月毎 | |||